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大阪高等裁判所 昭和25年(う)1452号 判決

被告人

田中知博

外二名

主文

本件控訴はいずれもこれを棄却する。

理由

被告人等の各控訴趣意第一点について。

憲法は第二一条第一項において集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由を保障しているが、行進又は示威運動は共同の目的を持つ一時的な集団に属するものとして集会の一種であるとともに、共同の目的たる主義主張を表現するものと見られるから、右表現の自由として保障せられているものといわねばならぬ。そして、この表現の自由は、基本的な自由権の一つとして保障せられているものであるが、この種の自由といえども、絶対無制限のものと解することはできないのであつて、憲法第一二条及び第一三条の規定の趣旨に徴し、社会の秩序維持、他の個人の権利保護その他公共の福祉の見地から要求せられる最少限度の制限に服すべきことは勿論である。今所論の京都市条例(昭和二四年第二九号行進及び集団示威運動に関する条例)を観るに、先ずその前文において前記の趣旨を明確にし、次に第一条において「行進又は集団示威運動で、街路或は公共の場所を占拠又は行進し、他の公衆の個人的権利及び街路の使用を排除又は妨害するに至るべきものは、公安委員会の許可を受けないでこれを行つてはならない。」と規定している。従つてこの規定は行進又は集団示威運動を一般的に制限するものではなく、そのうち街路或は公共の場所を占拠又は行進し他の公衆の個人的権利及び街路の使用を排除又は妨害するに至るべきもののみを要許可の対象として限定し、これに該当するものが公安委員会の許可を受けないで行進又は集団示威運動を行うことを禁止しているのである。更に第四条第一項において、「公安委員会は、行進又は集団示威運動が公安に差迫つた危険を及ぼすことが明らかである場合の外は許可しなければならない。」と規定して不許可の条件を限定し許可すべきことを原則としているのである。斯様に右条例は行進又は集団示威運動を一般的に制限することなく要許可の対象と不許可の条件とを限定してこれを制限しているのであつて、この種類この程度の自由制限は法治国の国民として憲法上その自由を保障せられると同時に公共の福祉を守るべき責任を負える者の常に甘受すべきところといわねばならぬから、右条例が憲法第二一条の規定に違反し基本的人権を制限するものであると速断することは出来ない。なお同条例所定の事項については法令に別段の定めがなく又これらの事項が固有の国家事務でもないから、地方公共団体は、地方公共の秩序維持のため必要があるときは、憲法第九四条及び地方自治法第一四条、第二条第二項、第三項第一号等の規定により右の事項について条例を制定する権限を有するものといわねばならない。従つて前記京都市条例は憲法に違反することなく有効であること明らかであるから、論旨は理由がない。

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